つまり胃がん、大腸がん、膵臓がんなどの場合、肝臓という臓器を一度通過するので、がん細胞が肝臓にくっつくチャンスは他の臓器よりも多いことになります。

 

 しかし、そのがん細胞に肝臓で生きられる性質がなければ、たとえ肝臓に物理的にくっついても生き続けられません。生着して塊をつくれなければ転移はしないのです。ところが肝臓でも生きていける性質を持っていれば、細胞は増え続けます。そしてCTや超音波で確認できる塊をつくっていれば肝臓に転移していると判定されるのです。

 

 つまりどの臓器に転移しやすいかは、その人のがん細胞の性質によるものです。「大腸がんだから」とか、「胃がんだから」というように、発生した臓器の名前で転移しやすさが決まるわけではありません。

 

5|なぜ高齢者は、がんになりやすいのか?

 

 すでに述べたように、がんが生まれてしまうのは、古い細胞から新しい細胞に遺伝子をコピーするとき、遺伝子の一部に写し間違いが生じるからです。

 

 新しい細胞は生まれるときに、古い細胞の持つ遺伝子の情報をそっくりそのまま受け継ぎます。

 


 

 一つの細胞には、信じられないほど大量の遺伝子情報がぎっしり入っていて、この遺伝子情報を一字一句間違いなく写し取らなければならないのですが、完全にコピーするのはなかなか難しいことです。たとえ工業製品であっても不良品が一つも出ないということはあり得ないように、間違いは必ず起きてしまうものです。この遺伝子の写し間違いを「遺伝子の突然変異」と呼びます。

 

 この間違いはそれほど頻繁に起こるわけではありません。細胞一つひとつで見れば、私たちが交通事故に遭うよりもずっと確率は低いでしょう。

 

 しかし私たちの身体を構成している細胞の数は全部で約60兆個もあり、毎日数百億個、数千億個というレベルで新たな細胞が生まれています。そのたびに細胞分裂が起きるのですから、一定の割合で遺伝子情報を写し間違えた細胞ができてもおかしくありません。

 

 ただし遺伝子情報を写し間違えたからといって、その細胞がすべてがん細胞になるわけではありません。さきほど説明したように、がん細胞の特徴は、増え続ける性質と転移できる性質を同時に持つことです。この二つの性質を同時に持つことができなかった場合、その細胞はほかの正常細胞と同じく、寿命が来れば死んでいきます。

 

なぜ辛いものを食べるとがんになりやすいのか?

 

 このようにがん細胞とは、偶然に偶然が重なって、たまたま、がんになる性質を獲得したものです。がんになる確率はそれほど高くありませんが、細胞分裂の機会を多く持てば持つほど、間違いが起こる確率も上がります。つまり年をとればとるほど、細胞分裂の回数が増えるので、いずれは間違いが起こって、がんができる確率が上がるのです。

 

 老化以外にも、細胞分裂の回数を過度に増やすことは、がんの原因になります。つまり細胞を頻繁に劣化させれば、古い細胞と置き換えるために身体は新しい細胞をつくらなければならず、細胞分裂の回数が増えて結果的にがんになる確率も上がるのです。

 

 たとえば辛いものや刺激の強いものを頻繁に食べると、強い刺激が食道の粘膜を傷つけますから、その修復のために食道の細胞分裂の回数が増えます。その結果、食道がんができやすくなることもあります。

 

 また「便秘がちな人は大腸がんになりやすい」とか、「過度に日焼けすると皮膚がんになりやすい」と言われていますが、これも細胞分裂の回数が増えることで、がんができる確率が上がることが原因の一つと考えられます。このようなことに心当たりがなくても、遺伝子の間違いは日常生活の新陳代謝でも偶然起こるので、普通に生活していてもがんになることはあります。

 

 しかしなんといっても、遺伝子の写し間違いを一番起こしやすいのは放射線です。放射線は遺伝子を傷つけるので、放射線を大量に浴びれば、遺伝子の間違いは起きやすくなります。

 

 とはいえ、放射線は自然界に当たり前に存在するものなので、なくすことはできません。それでも放射線を浴びる量をできるだけ少なくするために、現在は医療で使われる放射線の安全基準が定められています。

 

 とにかく、がんは偶然できるものである以上、どれだけ予防しようと思っても、なるときにはなってしまいます。なってしまったがんの理由を考えても、がんが治るわけではありません。大切なのはがんになってしまった現実を受け止めて、今後の対策を立てることです。

 

 

がんのイメージは「死に至る不治の病」というものでしょう。

 

しかし、がんになったからといって死ぬとは決まっていません。

 

死に至るためには条件が必要であり

 

その条件が満たされなければ

 

いくらがんが進行しても私たちは死なないのです。